2017-03-12

帰りの電車

ルーアンからナントへ帰るにはパリを経由しなければならない。パリに着きメトロに乗る。サンラザール駅からモンパルナス駅に移動し、無事ナント行きの電車に乗り込んだ。

外は稀に見る土砂降りで、ガラスを拭いても拭いても曇って外が見えない。外の見えない電車移動など退屈だなと思っていると突然睡魔に襲われた。30分くらい経った頃だろうか、車内アナウンスが私の眠気を覚ました。

「昨夜の暴風雨による影響で電車が遅れております。」

またか。
フランスの電車が遅れるのは毎度のことだか、今日こそは早く家について休みたかった。大した遅れじゃなければいいのにとうつらうつらしながら思い、また眠りについた。次に目を覚ましたのはほんの数分後のこと。電車は完全に停止していた。

「暴風雨によって折られた木々が線路に散らばっており、しばらく運転を見合わせます」

そのアナウンスのあとすぐ、
斜め向かいに座っていたおじさんが

「なんだと!チェーンソーはどこだ、切りに行くぞ!」

と言い、乗客の笑いを誘った。ため息やイライラで車内の空気が淀むことなく、一気に場が明るくなった。こういうことが言える人は本当にすごいなと一人感心しながらも、私はまだウトウト夢見がちだった。
ボリスが座るはずだった隣はもちろん空席で、その席以外満席だった車内で私は一人孤独を感じた。

隣の車両がバーだったので、飲み物や食べ物を求める乗客がドタバタと行き来するのが見えた。電車が止まっていつ再発進するか見通しもたってないというのに、客はなぜか楽しそうに見えた。あちらこちらで携帯電話がなり、着信音のオーケストラが始まった。ボリスはルーアンで葬式の準備などで忙しいだろうから、私は電話は使わなかった。

数十分がたちやっと電車が動いたと思えば、数分たってまた止まった。もういいかげんにしてくれと半ば諦めているとまたもやアナウンス。朝からの出来事に疲れ切っていた私にさらに追い討ちをかけるように、

「電力がなくなりましたので、電気を切ります。」


これには一同騒然。斜め向かいのおじさんも言葉が出ない。電気は完全に切られ、電車特有の機械音がなくなり完全なる沈黙が続く。バーでは、電気がないので暖かい飲み物がなくなり、乗客はそろいもそろって缶ジュースばかり買っていく。私はそれを横目で見ながら、ここ数時間起こったことをぼんやり考えていた。
ボリスのおじいちゃんは4人もの子宝に恵まれていながら、一度も子供を抱かなかったらしい。子供の世話はすべて妻に任せていたそうだが、それを聞いて誰がおじいちゃんの味方をしようか。妻であるおばあちゃんは老後に別居を始めた後も、週末には夫に会いにいき身の回りを世話していた。おじいちゃんをまだ愛しているの?なんて、そんな幼稚な質問は完全にタブーであったが、何かの機会にむしろ聞いてみたいと思った私はなんていじわるなんだろう。身内の人間が一人この世を去ったのに涙ひとつ出ないなんて、やっぱり世の中変だなと思ったりもした。


結局2時間半遅れでナントに着いた。
その頃にはすっかり空は青く、むしろ暑かった。いきなり違う季節にやってきたようだった。

家に着いてすぐに私は洗濯をし、お風呂に入った。歯もいつも以上に念入りに磨いた。その日起こったことを整理するように、でも何かがやりきれなかった。


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