2017-08-29

残暑のトラムで

仕事が終わってその足で友人の家へ行き、気づけば4時間ほどビールを片手に過ごした。今日はものすごく暑い日で、といっても日本ほど湿度がないのでそこまで地獄ではないのだけど、とりわけビールが美味しい日だった。
久々に会う友人との会話には花が咲き、それぞれこの夏何をしていたか報告。ほろ酔いできもちがよく、楽しい気分でトラムに乗って家路に着いた。


自分が降りる2つ前の駅にトラムが止まったとき、子供を二人連れた母親が「おりるわよ!」と子を急かしてドアに近づく。降りる人も乗る人も少ないこの人気のない駅は、運転手がそう判断したのも無理もなくドアがいつもより早く閉まる。子供がぐずぐずしていたのもあり、その母親はついに下車できなかった。

私はそれを見ながら「あぁ、逃しちゃったんだ…。次降りて、一駅分歩くんだろうなぁ」
とそれくらいに軽く思ったが、 母親は血相を変えて
「ちょっと、ムッシュー!ドアをあけてよ、早く、ドアをーーー!!!!」
と叫び出した。

私達がいたのは最後尾車で、もちろんその叫び声は運転手に届くわけでもなくドアは閉まったまま。トラムは発車したのだった。


あまりに気が動転している母親の様子を見て周りの人も不思議に思い
「ムッシュー!とめてくれー!」と援護。またある乗客は
「発車しちゃったんだから、無理だよ」
と母親をなだめようとした。

ところが母親は
「私の娘が外にいるのよ!どうしてくれるのよ!!娘が、娘がーーーーー!!!」


と叫び出した。
そこにいた誰もが気づいていなかったのだが、小さな女の子が外で泣きそうになりながら動き出したトラムを見ていた。

母親は必死に窓から顔を出し、たまたま娘の横にいた女性に
「マダム、娘から離れないで、お願い!お願い…」
と泣きながらさらに叫ぶ。

周りの人はみんなで緊急ボタンを押しトラムは停車。
この数秒の間に母親は怒り狂ったように泣き叫び、私はただただ口を開けたままそれを傍観していたのだった。


運転手は事態を察したのかドアを開けた。母親はすべてをけなしながら外に出て行く。息子たちもそれに続く。娘を抱きかかえ、そのまま誰に何も言わず、ただただ世の中を罵りながらまっすぐ歩き始めた。


他人の、気が狂ったように叫ぶ姿を見たのはいつぶりくらいだろうか。

緊急時に鳴らすアラームだけがトラムに響き渡っていた。


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